【業界研究】損害保険業界の現状・動向・課題について

業界の現状

生命保険と損害保険の違い

生命保険と損害保険は、万が一の事態が起きたときに被害の一部を補償するという意味では同じですが、その内容は生命保険と損害保険で大きく異なります。

生命保険が保証するのは「人の命」であって、保険金が支払われるのは人が亡くなったときになりますが、損害保険の対象は「モノの損害」であり、保険金が支払われるのはいわゆる偶然の事故によって損害が生じたときとなります。

また、保険金の支払いでも生命保険と損害保険では違いがあります。生命保険では、原則として契約していた保険金の金額の全額がそのまま受取人に支払われますが、損害保険では、支払われる保険金の額は実際に生じた損害の額を超えてはならないと規定されています(利得禁止の原則)。

損害保険の種類

損害保険の商品は、主に「物的保険」「人的保険」「賠償責任保険」に分けることができます。

物的保険

偶然の事故によって発生した「モノの損害」を補償する保険です。自動車保険、火災保険、自動車車両保険、盗難保険などがこれに当たります。

人的保険

「人に生じた損害」を補償する保険です。搭乗者傷害保険、自損事故保険、各種傷害保険などがこれに当たります。

賠償責任保険

偶然の事故によって保険加入者が負った法的な賠償責任をカバーする保険です。これは、新種の保険のなかでも注目を集めている分野で、その内容は実に幅広いものとなっています。

マンションの漏水、自転車事故といった日常生活で起こりうるさまざまな事故に対応するものや、会社役員賠償責任保険、専門職業人賠償責任保険など仕事に関する責任を補償するもの、個人情報漏えい保険など事業者の業務に関する賠償責任を補償するものなどがこれに当たります。

基本情報

  • 市場規模:8兆3,597億円
  • 労働者数:205万2,176人
  • 平均年齢:43.0歳
  • 平均勤続年数:14.8年
  • 平均年収:903万円

目につくのは、何といっても903万円という平均年収です。これは、全産業のなかでもトップレベルに位置します。

損害保険業界は、1879年にはじめて「東京海上」という損害保険会社が設立されて以来、「総合金融機関」または「総合安全サービス産業」へとその業務を拡大してきましたが、その成長を支えるのには、高待遇で優秀な人材を獲得する必要があったということでしょう。

仕事内容

損害保険会社は、たいていの場合、「総合職」と「一般職」に分けられています。

総合職は、営業・損害査定などの損害保険業の基幹に携わり、全国に広がる支店を転々とすることになります。転勤が多くなるのは、特定の顧客や代理店とのしがらみを排除するためという理由があるようです。

一方で、一般職は、転勤をすることはなく一般事務に携わります。近年では、「地域型従業員」と呼んでいる会社もあります。

業界シェアランキング上位3位

1位:東京海上ホールディングス:2兆8,707億円
2位:MS&ADインシュアランスグループホールディングス:2兆8,116億円
3位:SOMPOホールディングス:2兆2,689億円

平均年収ランキング上位3位

1位:東京海上ホールディングス:1,387万円
2位:SOMPOホールディングス:1,172万円
3位:MS&ADインシュアランスグループホールディングス:1,119万円

業界の動向

3メガ損保による寡占続く

損害保険業界では、東京海上ホールディングス、MS&ADホールディングス、SOMPOホールディングスという大手3グループが「3メガ損保」を形成し、3グループで市場の約90%強を占めるという寡占状態にあります。

金融庁によると、2016年度の3グループの連結純利益は5,727億円で、2年連続で過去最高を更新しました。損害保険業界の売上の約半分を占める自動車保険での保険料値上げや、リスクに応じた等級制度の見直しにより収支が拡大したものと考えられています。

大手3社の海外展開

東京海上HDは2015年、米国のHCCを9,400億円で買収しました。東京海上HDは海外事業を積極的に展開しており、収入保険料の40%近くが海外事業からのものになっています。

MS&ADインシュアランスグループHDは2016年に、6,400億円で英国大手のアムリンを買収しました。そして、スリランカの保険グループにも出資するなど、アジアを中心にネットワークを広げています。

SOMPO HDは、英国キャノビアスを買収し、ブラジルやトルコといった新興国に進出する準備を進めています。

テレマティクス自動車保険

あいおいニッセイ同和損害保険は、2015年にテレマティクスを活用した自動車保険「つながる保険」を発売しました。

テレマティクスとは、自動車に通信システムを組み込んで、走行距離などのデータを収集・提供するサービスです。筆頭株主のトヨタ自動車のTコネクトが利用できるカーナビを搭載した車両が対象となり、そのTコネクトが収集した毎月の走行距離に応じてキロ単位で保険料が変わるという仕組みになっています。

市場動向

損害保険業界の市場規模は8兆3,597億円

日本損害保険協会によると、2015年度の損害保険の正味収入保険料は、前年比3.4%増の8兆3,597億円で、6年連続での増加となりました。

種目別の内訳は、1位:自動車保険(3兆9,986億円)、2位:火災保険(1兆3,374億円)、3位:自動車損害賠償責任保険(1兆0,366億円)となっています。

損害保険会社数

日本損害保険協会に加盟する損害保険会社の数は、2016年の時点で26社となっています。

損害保険の販売形態は大きく分けて、㈰代理店扱(損害保険代理店が販売)、㈪保険仲立人扱(保険ブローカーが扱う)、㈫直扱(保険会社直接の販売)と3つに分かれますが、代理店の数は20万2,148店と多く、その代理店がさらに専業代理店(損害保険の販売のみ)と副業代理店(損害保険以外のものも販売する)に分かれます。

損害保険代理店の内訳は、専業代理店が4万2,319店(20.9%)で、副業代理店が15万9,829店(79.1%)となっています。

業界の課題

リスクと隣り合わせ

損害保険業界にはさまざまな保険が存在しますが、とうぜんのことながら、何かを補償するということは常に何らかのリスクを抱えるということになります。ですので、ジャンボジェット機、原子力施設、製油所といった巨大なものや、地震や台風など損害が1地域・1時期に集中するものを対象とする保険の場合、「再保険」という仕組みでリスクを分散します。

この再保険は、一般の人々が保険会社の保険に加入するように、保険会社が他の保険会社の保険に加入して、自社の引受能力を超える補償が発生したときにその一部を他の保険会社に肩代わりしてもらうというものですが、損害保険業界には絶えずそういったリスクと隣り合わせになるという危険性があります。

リスク管理体制のさらなる強化を

損害保険業界は、上記で説明したような自然災害をはじめとする保険引受リスクの他に、国内有数の機関投資家として資産運用リスクも抱えています。

各社は、現在およびこれからのリスクと自社の資本を比較して、経営の評価を行うとともにリスクテイク戦略等の妥当性を総合的に検証する取り組みを行い、年に1回金融庁に報告していますが、とくに近年、海外事業のリスクが増大していることもあり、さらなる収益の強化または経営の安定化のために、リスク管理をさらに統合的に強化して高度化する必要があります。

少子高齢化問題

総人口が減少し少子高齢化が進むなかで、保険加入の中核層となる30〜40歳代の人口が縮小することが見込まれています。

損害保険業界にとっての主力商品である自動車保険も総契約数が減少傾向にあり、そのなかでも20台前半の契約者数がここ10年で3割以上も減少しています。これは、これまでのビジネスモデルの限界を示しているのと同時に、今後、損害保険業界が自動車保険にかわる新たなフィールドを開拓していかなければならないことも意味しています。

業界の今後の将来性

海外事業が鍵

現在の損害保険業界は、国内事業の成熟化が目立ち、今後の市場の拡大は見込めない状況にあります。

大手3社は、20代前半の若者の自動車保険契約数増加に向けて、割安な自動車保険を導入するなどして、若者の車離れに歯止めをかけようとしていますが、いまだに大きな成果をあげることができていません。

しかし、アジアや中南米といった新興国では、経済成長や人口増加の見込める国々がたくさん存在しています。

新興国のニーズをつかみ、早期に保険市場を構築して、安定して収益化できる体制を作れるかどうかが、これからの損害保険業界にとっての大きな鍵となるでしょう。

おすすめの業界研究本

『日経業界地図 2017年版』日本経済新聞社

日本経済新聞社の記者が徹底取材をして、日本の180業界の最新動向や課題、将来の見通しを解説しています。企業間の相関図、企業・製品のシェア、業界のトレンドを示す表やグラフがビジュアライズされており、業界のことが一目でわかるようになっています。業界研究をするにはまず目を通しておきたい1冊です。

『会社四季報 2017年 2集春号』東洋経済新報社

国内の全上場企業の業績予想を中心に、所在地から財務情報まで、会社のことを知るのに欠かせない情報をまとめたハンドブックです。就職活動における業界研究から、株式投資といったビジネスユースに至るまで幅広く使えるのが人気の理由です。

『生保・損保〈2018年度版〉』千葉明

産学社「産業と会社研究シリーズ」の『生保・損保編』になります。生命保険・損害保険自体についての情報は少ないですが、両業界の基本的な部分は簡潔にまとめられていますので、業界研究の入門書として最適です。