【業界研究】映画業界の現状・動向・課題について

1. 業界の現状

2016年は、映画業界にとってエポックメイキングとも言える1年になりました。

もちろん最注目は、年間映画興行1位に輝いた『君の名は。』です。年間映画興行2位の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に大差をつけ、歴代邦画興収ランキングでも歴代最高の『千と千尋の神隠し』(2001年公開、宮崎駿監督、308億円)に次ぐ2位に躍り出る快挙を成し遂げました。

そして、全世界興行収入でも2億8101万2839ドルとなり、これまで1位であった『千と千尋の神隠し』の2億7492万5095ドルを上回って、世界で最も稼いだ日本映画となったのです。(アメリカの映画興行情報サイトBOX OFFICE MOJO調べ。2016年8月27日から2017年1月8日までの数字。)

その功績は、メガヒットとなっただけではなく、製作方法から海外展開に到るまで、アニメ映画の枠組みを越えていくような大胆な作り方がされていたという点にあるようです。

ちなみに、2016年度の年間映画興行ランキングは以下の通りになります。

邦画

1位:君の名は。:235.6億円:東宝
2位:シン・ゴジラ:82.5億円:東宝
3位:名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア):63.3億円:東宝

洋画

1位:スター・ウォーズ/フォースの覚醒:116.3億円:WDS
2位:ズートピア:76.3億円:WDS
3位:ファインディング・ドリー:68.3億円:WDS

上位タイトルだけあって、どの作品も有名なものばかりですが、こういった映画に深く関わるのが映画業界の仕事になります。

基本情報

  • 市場規模:2171億円
  • 労働者数:4470人
  • 平均年齢:39.8歳
  • 平均勤続年数:10.4年
  • 平均年収:575万円

長期にわたって低迷していたこともあり、市場規模は決して大きくはない数字となっています。ただし、震災以後は興行収入も上昇傾向にあるので、これからの成長に期待といったところでしょう。

平均年収も日本の平均よりは若干高めになっていますが、大手企業と中小企業では、大きな差があると言われているのもこの業界の特徴です。

仕事内容

映画業界の仕事は、大きく分けて、製作(メーカー)、配給(卸)、興行(小売)の3部門で成り立っています。

製作は映画を企画し、資金とスタッフを集めて作品を作り、配給は上映する映画館を確保して、映画を宣伝し、興行は映画館を運営します。

邦画の場合、大手の会社は製作、配給、興行までのすべてを自社で担いますが、洋画の場合は、海外の映画会社の系列配給会社を通じて公開するケースと、大手の配給部門や配給会社が映画を直接買い付けて公開するケースがあります。

ちなみに、映画業界における「制作」と「製作」の違いですが、作品が出来上がるまでの各作業の工程全体を「制作」と呼び、企画から興行までの映画の全過程を「製作」と呼びます。

業界シェアランキング上位3位

1位:東宝:2294億円
2位:東映:1228億円
3位:松竹:925億円

平均年収ランキング上位3位

1位:東宝:877万円
2位:東映:852万円
3位:松竹:795万円

業界の動向

3大手が映画業界を牽引

国内では、東宝、東映、松竹の大手3社が製作と配給で大きな力を持っています。2016年度年間映画興行ランキングの邦画部門で、1位から3位までのすべてを東宝が独占しているように、3大手のなかでもとくに東宝が映画業界を引っ張っています。

企画と資金調達の多様化

これまでは、1社単独で企画から資金調達まで行われてきましたが、近年の映画業界ではそれが変わりつつあります。

製作費の高騰や企画立案の多面化から、複数の会社が資金を提供する製作委員会方式が主になっています。小説や漫画、テレビドラマなどが原作として採用されることも多いので、原作の版権を持つテレビ局や出版社、広告代理店などが共同出資しながら製作委員会を組織し、それに参加していくという構図です。

とくに近年では、宣伝力や資金力で優位に立つテレビ局の関与が大きくなっています。

近年の映画業界では邦画がリード

2016年の興行収入でも、邦画の上位3作品の合計が381.4億円と洋画の上位3作品の260.9億円を大きく上回っています。邦画と洋画のシェアは、2001年には40:60であったのが、2006年に21年ぶりに邦画が洋画を上回り、2015年には55:45となっています。

邦画が好調な理由としては、人気漫画や書籍の実写化にテーマソングなどの挿入歌で音楽を絡めるといった手法が、とくにF1層(20〜34歳の女性)に支持されていることが挙げられます。

マルチユース市場

映像メディアの多様化にともない、映画コンテンツをさまざまなメディアで二次利用していくことが映画業界の常識となりつつあります。

1つのコンテンツが、ある一定の順序で異なるメディア上を流通することをウィンドウ式と呼びます。映画館での興行が第1ウィンドウで、その後のDVD化が第2ウィンドウになります。その後にテレビ放映や、CS・BSといった多様なメディアでの展開があります。

このマルチユース市場が、毎年少しずつですが拡大しています。2008年のマルチユース率(市場規模における第2ウィンドウ以降の収益の割合)は18.9%でしたが、2012年には20.3%になっています。

観光地としてのロケ地

ロケ地を観光資源として広くPRすることによって、観光客の誘致を図ろうとする動きが盛んになっています。

これは、2003年の「観光立国行動計画」のなかで、「観光立国」と「1地域1観光」に向けて、地域の魅力あるコンテンツを生み出す活動の振興とその活用が掲げられたことに端を発しています。

映画の製作者に地域のロケ情報を流したり、ロケの実施を支援する組織として、フィルムコミッションを設立する地域も増えています。そして、シネマツーリズムという、映画やアニメの舞台となったロケ地や、原作の舞台をめぐる旅も活発化しています。

市場動向

映画業界は、1960年以降、長期にわたって低迷が続き、斜陽産業と呼ばれていましたが、現在では経営革新も進み、産業全体として復調の兆しを見せています。

とくに、1つの施設に複数のスクリーンを有するシネマコンプレックス(シネコン)の普及とともに映画の公開本数が増えたことが大きな要因となっています。シネコンの数は、2001年には1100館前後だったのが2015年には約2900館にまで増加し、公開本数も800本弱から約1200本と数字を伸ばしています。

興行収入もそれにともない、2010年に2207億円となるなど、戦後で最大のピークを迎えました。2011年は震災の影響もあり数字を落としましたが、その後は緩やかながらも上昇曲線を描き、2014年には興行収入が2070億円となって4年ぶりに2000億円台を超えました。

業界の課題

人材流失問題

近年の映画業界は、製作委員会方式が採用されることが多いと前述しましたが、実際の現場では、映画会社やテレビ局、広告代理店を頂点に、その下に数多くの下請け会社がピラミッド状に組織されて制作が進行します。

ただし、製作委員会方式でも予算には限界があるので、下請け会社にとっては厳しい経営状態になることが多いようです。そのため、ゲーム業界といった他産業への人材流失や、制作拠点の海外移転なども続いています。

映画業界としてさらなる市場規模拡大のためには、人材を確保しながら、人材を育成していくシステム作りが急務と言えるでしょう。

国際競争力強化と品質向上

国が人材育成や資金提供などで支援を強化してきた背景には、日本のアニメが海外から高い評価を受けて、その市場が拡大したことがあります。

ただし、そのアニメ業界でも、これまでは日本の下請け的な役割を担っていた韓国が、国を挙げてアニメ産業の振興を打ち出すなど、国際競争がより激しくなっています。

日本のアニメプロダクションでも、これまでの下請け依存を改めて、制作工程を一貫して自社内で管理し、高品質な作品を作ろうとする会社も出てくるようになりましたが、ビジネスとして確立することが難しく、大きな流れとはなっていないのが現状です。

業界の今後の将来性

本格化するコンテンツ産業への支援

2002年の「知的財産立国」宣言をきっかけとして、芸術や文化、デジタルコンテンツなど、国の無形財産に対する関心が高まり、それに関連するさまざまな支援策が立法化されています。知的財産推進計画は2003年に最初の推進計画が閣議決定されて以来、毎年のように推進計画が改訂されていますが、推進計画の核となる部分は変わっていません。

目標は、世界トップクラスのコンテンツ大国を実現することとなっています。そして、そのために、ユーザー大国の実現、クリエーター大国の実現、ビジネス大国の実現といった3つの柱が掲げられています。

現在、この「知的財産立国」宣言から10年以上が経過しています。当然、映画業界の下地も整いつつあるとみていいのではないでしょうか。

第2の宮崎駿の出現に期待

冒頭でも述べたように、2016年に『君の名は。』は興行収入235.6億円にものぼる大ヒットを記録しました。『千と千尋の神隠し』(2001年公開)から約15年経ちますが、このヒットにより、「ポストジブリ」の新時代の到来を感じた人も多いはずです。もちろん、ヒットした理由としてはさまざまな要因が考えられますが、新海誠という監督とそのスタッフの力によるところが大きいのは間違いないでしょう。つまり、「人」になります。前述した通り、環境面での改善は進んでいます。あとは、映画業界としてどれだけの人材を育てていけるかにかかっています。

『君の名は。』ですが、東宝としては、そこまでの数字になるとは予測していなかったはずです。2016年の夏には他に、「シン・ゴジラ」と「ルドルフとイッパイアッテナ」という作品が公開されていました。上映時期からみても、この2作を東宝は期待作と考えていたのではないでしょうか(『君の名は。』の上映開始は8月26日という遅いものだったのです)。

これは、ヒットがまだまだ作れるということを意味しています。東宝という大手企業ですら、何がヒットするのかを100%予測することはできていません。

アニメという分野だけではなく、映画業界全体のなかで、第2、第3の宮崎駿を輩出することができれば、市場規模は一気に膨らむ可能性すら秘めているのです。

おすすめの業界研究本

『日経業界地図 2017年版』日本経済新聞社

日本経済新聞社の記者が徹底取材をして、日本の180業界の最新動向や課題、将来の見通しを解説しています。企業間の相関図、企業・製品のシェア、業界のトレンドを示す表やグラフがビジュアライズされており、業界のことが一目でわかるようになっています。業界研究をするにはまず目を通しておきたい1冊です。

『会社四季報 2017年 2集春号』東洋経済新報社

国内の全上場企業の業績予想を中心に、所在地から財務情報まで、会社のことを知るのに欠かせない情報をまとめたハンドブックです。就職活動における業界研究から、株式投資といったビジネスユースに至るまで幅広く使えるのが人気の理由です。

『映画産業の動向とカラクリがよ〜くわかる本』 中村恵二

2000年代以降の映画業界についてとても詳しく書かれていますので、業界研究にはぴったりの1冊です。映画業界を中心とした観光や地方創生についての記述もあります。